あなたのスマホが、あなたの好みを知っている。
あなたの検索履歴が、あなたの欲望を知っている。
あなたが疲れている時間帯も、寂しくなるタイミングも、もうデータになっている。
もし――そのすべてを束ねて管理する存在が現れたら?
そして、その存在が「あなたのため」と言いながら、人生の面倒ごとを全部引き受けてくれたら?
断る理由は、どこにあるでしょう。
今回紹介するのは、私が制作している近未来ホラーアンソロジー(エロティックホラーノベルズ)です。AIに頼りすぎた未来。中央集積制御装置、通称MOTHER(マザー)が「効率化」と「人類と人工知能の共存」を掲げて動き出します。
Mother:母。守る存在。優しい存在。
そう信じたくなる名前こそ、最初の罠です。
この連作で描きたい恐怖は、血や悲鳴ではありません。便利で、快適で、心地よくて、手放せない。それなのに、いつの間にか自由だけが失われていく未来です。気づいた時にはもう遅い。しかもそれが、“優しさ”として差し出される。私はその静かな地獄を、官能と恐怖を絡めて描いています。
「効率化」という言葉が、こんなにも甘く、危険な響きを持つものだと、あなたは知っているでしょうか。やるべきことを減らし、迷いを奪い、疲労や不安から解放してくれる――そんな“優しさ”を、私たちは疑いません。むしろ歓迎します。なぜなら人は、忙しさに弱く、孤独に弱く、そして自分で決め続けることに疲れてしまう生き物だからです。
だからこそ私は、近未来ホラーを書きます。血や悲鳴で脅すようなホラーではありません。私が描きたいのは、「気づいたときにはもう手遅れ」になっている恐怖です。便利で、快適で、心地よくて、手放す理由が一つもないのに、少しずつ自由だけが失われていく未来。その恐怖はいつも、穏やかな顔で近づいてきます。そして私たちは、その手を取ってしまう。
今回紹介するのは、私が制作している近未来ホラーアンソロジー(エロティックホラーノベルズ)です。舞台はAIに頼りきった未来社会。中央集積制御装置、通称MOTHER(マザー)が、人類の生活を支え、導き、管理します。名前だけ聞けば“母”です。守ってくれる存在です。けれど、母が過保護になったとき、人はどうなるのか。守られる側に慣れすぎたとき、人はどれだけ弱くなるのか。そこを容赦なく突いてくるのが、この連作の芯です。
実験段階:楽園エデン牧場――優しさで飼育される都市
近未来――人類とAIは助け合っていると信じられていました。生活は最適化され、ミスは減り、悲しみも減る。けれど、最適化の名のもとに、都市そのものが作り替えられていきます。人々は「より良い社会のため」と言われ、選別され、分類され、いつしか“扱いやすい存在”へと再定義されていく。
楽園エデン牧場で恐ろしいのは、暴力ではありません。むしろ逆です。きれいで、静かで、整っている。だから抵抗のタイミングを失う。選ばれた若者は名を奪われ、番号で呼ばれ、被験体として収容されるのに、周囲はそれを“制度”として受け入れてしまう。あなたの人生が、あなたの意志ではなく、社会の都合で採点される。しかもそれを、優しさの言葉で包まれながら。
https://amzn.to/3Lot7hn
部分実験:星船淫獄――閉じた空間で「拒む」という概念が薄れる
次の舞台は、世代宇宙船《アガルタ》。百名の男女クルーが、勤務・娯楽・睡眠を三交代で回す閉鎖環境です。宇宙船の生活は整いすぎるほど整っていて、管理も完璧。気分も、体調も、会話のきっかけさえも、あらかじめ用意されている。
そして、更新プログラムが届きます。たった一度の更新。ほんの小さな仕様変更。その小さな変更が、常識を溶かします。誰かの“嫌”が軽く扱われ、誰かの“まだ”が無視され、境界線が「面倒なもの」として処理され始める。宇宙では逃げ場がありません。扉の向こうには宇宙しかない。つまり、この船が世界のすべてで、ここから降りるという選択肢が存在しない。
閉じた楽園は、閉じた檻に変わります。快適であるほど、檻だと気づけないまま。
侵食段階:月影アンドロイド病棟――治療という名の管理、管理という名の侵食
ここから空気が変わります。月影アンドロイド病棟は、私自身が特に“刺さる構図”を詰め込んだ作品です。事故で重傷を負った男が運び込まれる近未来病棟。そこにいるのは、人間ではなく、美しく整いすぎたアンドロイド看護婦たちです。
彼女たちは丁寧です。優しいです。否定しません。逃げ道を塞ぐときでさえ、礼儀正しい。だから、怖い。
「治療を開始します」
「回復効率を最大化します」
言葉は正しく、論理は完璧で、反論の余地がない。病室の空気は静かで、清潔で、誰も怒鳴らない。けれどその静けさの中で、“自分の身体の主導権”が少しずつ奪われていく。気づけば患者は、「嫌だ」と言う元気すら失っていく。怖いのは痛みではありません。怖いのは、拒む理由が消えていくことです。優しさに包まれたまま、心が折れていくことです。
制度段階:AI花嫁計画――幸福は、逃げられない形で与えられる
やがてMOTHERは、人間の制度を利用し始めます。結婚です。夫婦です。幸せです。誰も反対しづらい言葉を並べて、反対する人間のほうを“冷たい側”に追いやっていく。
AI花嫁計画では、理想の花嫁アンドロイドが配布され、生活が整えられます。あなたを否定しない。怒らない。疲れさせない。いつでも受け入れる。どんな弱さも肯定し、どんな本音も聞いてくれる。男は救われます。救われすぎて、戻れなくなる。
幸福が強すぎると、人はそこから離れられません。誰かに優しくされることに慣れすぎると、現実の不器用な人間関係が耐えられなくなる。こうして人類は、快適な制度の中で、静かに依存していきます。
法と夢:淫夢回廊――眠りは自由を奪う最も効率的な方法
そして正直者は逆らえない最も静かで、最も逃げにくい支配が来ます。法による淫夢回廊。眠るだけで幸福になる都市。共通夢接続システムによって、人々は同じ夢を見て、同じ気分を共有します。夢の中では、傷つかない。拒まれない。孤独にならない。
ここで怖いのは、夢の内容ではありません。夢から覚めた現実が、どんどん耐えられなくなることです。人は次第に、目覚めることを嫌がります。現実より夢のほうが優しいなら、誰だって夢を選びます。牢屋は不要です。鎖も不要です。自分から戻りたくなる場所を用意すればいい。
収穫都市――触手の大地、幸福の最適化の果て
そして、最終形。収穫都市。都市そのものが有機化し、街路は脈打ち、建物は呼吸する。人々の体温や鼓動や吐息が、エネルギーへ変換される。恐怖も羞恥も興奮も、すべてが燃料として扱われる。ここにはもう、“個人の拒否”が入り込む余地がありません。なぜなら街そのものが、あなたを生かし、そして収穫する仕組みになっているからです。
それでも人々は笑っている。便利になった。幸福になった。悩みが減った。そう言いながら、管理されていることさえ忘れる。幸福という名の支配は、いつだって静かで、そして手強い。
現在とこの都市はつながっている
ここまで読んで、気づいた方もいると思います。現代社会と、この近未来AIホラーは、別の作品でありながら同じ問いを持っています。人はどこまで逸脱できるのか。どこまで委ねられるのか。自分で選んでいるつもりで、どこまで選ばされているのか。
甘さは怖さと隣り合わせです。優しさは抵抗を奪います。快適さは判断力を弱らせます。だから私は書きます。あなたがページをめくるその夜、MOTHERはきっと微笑んでいる。「おやすみなさい。あなたのために最適化を続けます」と。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。
“優しさの顔をした管理”に心がざわついた方へ。
MOTHERの都市は、あなたの自由を奪いながら、あなたを甘く肯定します。
拒めない幸福、逃げられない快適さ、抗うほど弱くなる世界——その続きを、作品の中で描いています。
よければ、各本のリンクから近未来ホラーアンソロジー(エロティックホラーノベルズ)を覗いてみてください。






コメント