故事成語:背水の陣 二つの戦いと現代の間違えた使われ方

アジア城温故知新

もう後がない!部下たちに背水の陣と

檄を飛ばさねば!

彩流
彩流

日本でよく使われる「背水の陣」と言う言葉。

玉砕、人海戦術の「生き残る為」と使われますが、

理想の「背水の陣」は「勝つ為」の戦術です。

「背水の陣」二つの出来事と由来

よく使われる「背水の陣」ですが、有名なのは項羽と劉邦でおなじみ「韓信将軍」の背水の陣。

ただ、実際の使われ方はそれよりも先に「項羽」が行った背水の陣が使われているようです。

まずは項羽の行った背水の陣から見ていきましょう

背水の陣① 部下たちを脅して死に物狂いで戦わせる

力の落ちてきた秦を亡ぼすべく、項羽軍は戦いを進めていました。

難敵と対する為、ある大河を渡り陣を張った際のこと。万全な装備でも訓練もされていない、ましてや長距離の移動。

自分たちの劣勢に気が付いた項羽は、帰りの船や橋を壊し、食料も各自3日分のみ持たせます。そして

「生きて帰りたい者は、目の前の敵を滅ぼして前に進め!」と檄を飛ばします。

補給も休憩もなく戦わされた部下たち。被害は多いものの、何とか勝利を収めました。

これが項羽の行った背水の陣①です。

背水の陣②

時は流れて、秦が滅び、項羽と劉邦の争いが本格化。劉邦軍の大将軍となった韓信。周辺国の趙を攻めているときの話です。

既に用兵家として名高くなった韓信。とはいえ、部下の半分近くは周辺から算入された新兵、十分な訓練もされていません。

そこでその新兵たちを、川を背にして陣を構えさせ、後が無いから必死に戦えと言います。

敵将は、兵法の基本を知らないと韓信を舐めてかかります。ところが、窮鼠猫を嚙む、持久戦に持ち込むことに成功。敵兵も日没で疲れたため、自分の城に帰ろうとした所、城は既に韓信によって占領されていました。

韓信は前の日、訓練された別動隊に作戦を与え、主戦場を離れた道から敵が出払った城を落とす作戦に出ていたのです。

古城

背水の陣の解析

二つの「背水の陣」ですが、戦術として考察する必要があります。

陣を張る場所

まず、陣を張る場所。「正々の旗、堂々の陣」と言われるように陣地は堂々としなければなりません。

陣を張る場所として、背中が水場となる「背水」は物流、逃げ道が無く、動きも取れない為、陣を張ってはいけない死地です。

項羽も韓信も同じように背水の陣を張りました。共に部下に死力を尽くさせるためと言われています。

項羽は自らの命令で食料を捨て、船や橋を壊しています。疲れている部下たちを追い詰めるためですね~。

逆に、韓信の作戦は、相手を油断させる、という別の目的がありました。

相手の油断を誘う事で、自陣地の傍で戦える

項羽の戦い方、生きて帰るためには、目の前の敵を倒す必要がある。とりあえずの士気は上がりますが、「負けないように戦う」ことが主流になります。

一方、敵を油断させて相手から攻めさせることで、訓練されていない兵を活用する韓信の戦い方。指示系統もうまくいかないでしょう。

ただ、陣がすぐそばにあれば「鐘の音」や「声での命令」が届きやすい。怪我をした際もすぐに陣に戻れる。新兵であれば、背水の陣の短所がよくわかっていないこともありますが、陣が近くにあるというのが分かれば、戦い方も変わってきます。

勝つ為の作戦がある

死に物狂いで戦わせた項羽。長距離移動の上、自ら補給路を断っています。

逆に韓信将軍の戦い方、相手を油断させて挑発して自陣の近くで戦わせる。それと同時に訓練された兵を使って別動隊に城を攻めさせています。

勝つ為の「背水の陣」を行った韓信将軍。相手の将軍の情報も、そして自軍の情報がどれだけ伝わっていたのかを得ていたのでしょう。

敵を知り己を知らば百戦危うからず

現代社会の問題点:「背水の陣」はブラック企業の常套句

中小企業の社長や組織のリーダーでよく「背水の陣」と言う言葉を使っている方々がいらっしゃいます。

日本の使い方では②の韓信将軍の勝つ為の戦術ではなく、酷使する①の項羽の背水の陣の様です。

まさに従業員・有期雇用の使い捨てのブラック企業、ブラック社会が「背水の陣」と言う言葉をよく使います。

補給を甘くみている

背水の陣の一番の問題点は、逃げ道が無いことのほかに、補給ができにくい事。

精神的な休み、余裕が取れない現代社会。死にたくない・無職になりたくないと暗示をかけて、必死に業績を上げようとしています。

補給もなく、逃げても3日分程度の保存食。部下を使い捨てにしているようですね。

豊かな生活をするために働いているのに、普段の生活を犠牲にして働いているのは本末転倒です。

相手を見ているか否か

韓信将軍の背水の陣は、問題点(この場合は敵将)を認めてその油断を誘っています。問題点の解析と対策、その上に相手の城を落とす偉業まで成し遂げています。

一方項羽の戦い方はただがむしゃらに働かせているだけ。どのような敵とどのように戦うか、ということはほとんど考えられていません。危うい戦いだったといいざるを得ません。

部下や新入・M&A時の心情

必死に働かされるのは仕方ありません。戦い方はリーダーやトップに任されています。この両者の戦いの違い、戦い終わった際に、どちらの部下が良かったかは言うまでもありません。

また、項羽も韓信も、その前後には同じような戦術をとっていません。

ただ、生き残った兵やこれから入る将兵にとって、どちらの戦い方が魅力的、一緒に働きたいと思うか?という事も勝敗がしっかりついています。

リクルート、新卒採用に予算をかけることも大切ですが、一緒に働きたいと思わせられるような職場になっているか?という事にも予算をかける必要があります。

まとめ

よく使われる言葉の「背水の陣」。項羽と劉邦からの出典で戦では2回使われています。

項羽と韓信、それぞれ使った背水の陣。使い方は全く違います。

片方は部下を酷使して負けない戦を、もう一つは相手を引き付けておいて、その間に城を落とす勝つ戦をしています。

背水の陣、勝つ為に使いたいですね。

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