AIはすぐ答えを出す。だから私は、あえて待つことにした

オーストラリア生活

前回の記事で、私は「AIに仕事の速さを任せる」という考え方にたどり着きました。

AIはすぐに答えを出してくれます。教材を作り、文章を直し、繰り返しの練習問題も一瞬で用意してくれる。この速さは、本当にありがたいものです。私自身、これからもAIを積極的に使っていくつもりです。

ただ、その速さに助けられながら、ふと考えるようになったことがあります。

「では、生徒と向き合う時間まで、速くする必要があるのだろうか」

AIに任せられる作業はAIに任せる。それはこれからも変わりません。今回は、そのうえであえて速くしないと決めた時間の中で、自分が何をしているのかを書いてみます。

第1章 「待つ」とは、何もしないことではなかった

日本語の練習問題で、生徒が4つの選択肢からなかなか答えを選べないことがあります。

生徒が黙って考えている。私はそこで、すぐに正解を言いません。少し間を置いてから、選択肢を一緒に見直します。

「これはどう思う?」 「じゃあ、これは違うと思う?」

そうやって一つずつ選択肢を確認していくうちに、4つあった選択肢が3つになり、3つが2つになっていく。「かなり絞れたね」と声をかけると、生徒の表情が少しやわらぐ瞬間があります。

この時点で、生徒はまだ正解にたどり着いていません。でも私は、これを「進んでいない」とは思いません。4択が2択になった。それだけで、十分に前進だと思っています。

この経験を通じて気づいたのは、「待つ」というのは、何もしないことではないということです。生徒が考えている間、私は何もしていないように見えて、実はどこで迷っているのか、次に何を聞けば自分で答えに近づけるのかを、ずっと考えています。待っている時間も、教師にとっては仕事をしている時間なのだと思います。

第2章 答えを教えるより、「考え方」を一緒に考える

正解をすぐに教えることは簡単ですし、それが必要な場面ももちろんあります。

ただ、選択肢を一緒に絞っていくようなやり取りには、別の意味があると感じています。それは、今日の問題の答えだけでなく、「分からないときに、どう考えればいいか」という進め方そのものを、生徒に体験してもらえるかもしれないということです。

一つの正解を渡すだけでは、次に似たような問題に出会ったとき、また同じように立ち止まってしまうかもしれません。「これとこれを比べてみる」「まず違うものから消していく」という考え方を経験してもらえれば、次の問題にも活かせる可能性があると思っています。

ここで、AIとの違いを考えてみます。AIに聞けば「正解は②です」とすぐに教えてくれますし、「正解を教えずに、ヒントだけ出して」と頼むこともできます。つまり、AIにも「待つ」ことはできるようになってきています。それでも私は、目の前の生徒がどこで迷っているかを見ながら、その場で一緒に考える時間を、人間の教師として大切にしたいと思っています。

第3章 教師は「説明する人」だけではない

同じ間違いを繰り返す生徒がいたとき、以前の私は「もう一度説明し直そう」とすぐに考えていました。

ですが最近は、説明を変える前に、もう少し生徒を見るようにしています。

  • 何が分かっていないのか
  • なぜ同じ間違いを繰り返すのか
  • 自分の話す速度が速すぎないか
  • そもそも、緊張しているだけではないか

同じ間違いでも、原因は一つではありません。理解できていないのか、緊張して言葉が出てこないだけなのか、説明の仕方が合っていないだけなのか。原因が違えば、教師がすべきことも変わってきます。

説明を変える前に、生徒を見る。

教育の世界では、教師が質問のあとにあえて数秒待つ「Wait Time」にも意味があるとされているそうです。専門的にそれを学んだわけではありませんが、実際の授業の中で、説明を重ねるよりも、まず観察することの大切さを感じるようになりました。

第4章 50代になって、少し待てるようになった

正直に言うと、若い頃の自分は、こんな風には教えられなかったと思います。

沈黙が続くと、「教師なのだから何か言わなければ」と焦っていました。早く答えを出さなければ、早く次に進まなければという気持ちが先に立ち、つい答えを教えてしまっていたと思います。

50代になった今、以前より少し待てるようになったと感じています。これは、年齢そのものの力ではなく、これまで多くの生徒と接してきた中で、うまくいかなかった経験を重ねてきたからだと思います。長く生きてきたから偉いということではなく、いろいろな失敗や経験を重ねた結果、「すぐ答えが出なくても大丈夫」と思えるようになった。それだけのことだと思っています。

第5章 AIに速さを任せる。でも、人との時間は急がない

これまでの記事で書いてきたように、50代には50代なりの経験があり(#1)、AIを使えば授業準備を大幅に効率化できます(#2)。ただ、AIで速くした分、別の忙しさが生まれることもある(#3)、というのがここまでの流れでした。

だからこそ今、私は「速くしたほうがいい仕事」と「速くしなくていい時間」を、自分の中で分けるようにしています。教材作りやメール対応は、これからもAIに任せていきます。そして、AIに速さを任せた分、生徒と向き合う時間には、もう少し余裕を持てるようになったと感じています。

これは「ゆっくり進めることが正しい」という話ではありません。もっと速く進みたい生徒、効率よく間違いを直してほしい生徒も、当然たくさんいます。大切なのは、待つことと、その先できちんと前に進めることの両方だと思っています。待つだけで終わらせず、絞れたところから次の一歩につなげる。そこまでできて、初めて意味のある「待つ」になるのだと思います。

結び

AIには仕事を速くしてもらう。でも、生徒が考えている時間まで、速くしなくていい。

今の私は、そんな風に働き方を分けようとしています。

 

あなたの仕事の中で、「速くしたほうがいい時間」と、「速くしないほうがいい時間」は、どこにあるでしょうか。一度、考えてみてもらえたら嬉しいです。

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